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2019/06/26
北海道興部町とバイオガスプラントにおけるバイオガスの酸化技術開発に関する連携協定を締結

2019年6月26日(水)、大阪大学先導的学際研究機構と北海道興部(おこっぺ)町は、バイオガスプラントにおけるバイオガスの酸化技術開発に関する連携協定を締結しました。この連携協定の締結は、興部町のバイオガスを有効活用したいというニーズと、大阪大学がメタンガスをメタノール等への有用物質へ変換する技術を有していたことが契機となりました。
この連携協定に基づいて、今後大阪大学では大久保敬 教授を中心とした研究グループが、乳牛ふん尿から得られるバイオガスからメタノールやギ酸を製造する反応技術の研究開発を進めます。従来は、不純物を含まないメタンガス(純メタン)を原料とした反応技術の研究開発を行ってきましたが、バイオガス中に約40%含まれる二酸化炭素等が存在する状態でも、メタノールやギ酸を製造することが可能か確認するための実証試験を行い、また、反応条件の最適化についても検討を進める予定としています。一方、興部町は化学装置メーカー等の協力を得て、町営の興部北興バイオガスプラントにおいて、大阪大学が研究開発した技術を導入するための試験を進めます。
締結式では、大阪大学先導的学際研究機構 八木康史機構長と北海道興部町 硲一寿町長が、協定書にサインした後、握手を交わし、今後の連携、協力を確認しました。
この連携協定を通じて、大阪大学が研究開発した科学技術を世の中へ展開し、バイオガスの今までに無い領域への利用法や、可能性を広げる新技術となることが期待されます。
締結式では、大阪大学先導的学際研究機構 八木康史機構長と北海道興部町 硲一寿町長が、協定書にサインした後、握手を交わし、今後の連携・協力を確認しました。

協定書を持ち握手を交わす硲一寿 興部町長(左)と八木康史 先導的学際研究機構長(中央)

関係者の集合写真(左から安東主査(興部町)、硲町長(興部町)、八木機構長(先導的学際研究機構)、大久保教授(高等共創研究院・先導的学際研究機構)、土井副機構長(先導的学際研究機構)

概要説明を行う大久保教授(高等共創研究院・先導的学際研究機構)


■大阪大学の有する技術

工業用途で莫大な需要があるメタノールは現在、全量海外からの輸入で賄っています。我が国の国際競争力を高める観点から、メタノールを国内で生産する技術の開発が必要とされています。メタノールはメタンを水蒸気改質することによって得ることが出来ますが、高温、高圧、高価な触媒を必要とするなどの課題がありました。メタンの酸化方法についての研究報告は数例ありましたが、高温・高圧を必要とし、酸化剤は過酸化水素や一酸化二窒素などを使用するものでした。省エネルギー化の観点から常温・常圧の反応系が望まれており、さらに酸化剤は安全で無料の空気中の酸素を用いることが理想です。
大阪大学高等共創研究院の大久保敬教授研究グループでは、除菌・消臭剤の有効成分として知られている二酸化塩素の特異な反応性に着目して、光照射下、常温・常圧、かつ酸素による、メタンガスからメタノールへの酸化法の開発に成功しました。この反応ではメタノールの収率は14%に達し、それ以外にもギ酸が85%得られるのでほぼ100%のメタンガスが二酸化炭素の排出なしに有用な液体化学物質に変換されます(Ohkubo, K.; Hirose, K. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 2126にて発表済み)。
メタンは化学的に極めて安定な物質なので、メタンを酸化するためには、非常に強力な酸化剤を必要とします。しかし、メタンに比べ生成物のメタノールの方がより簡単に酸化されるためにメタノールとして取り出すことができず、メタノールが燃焼酸化された二酸化炭素や一酸化炭素に速やかに変換されてしまいます。
大阪大学のこの技術は、メタンからメタノールの空気酸化の科学技術開発において画期的なものであり、メタン酸化の収率はこれまで知られている別の酸化剤を使用した場合と比べても世界最高値を示しています。これにより、貴重なバイオガス資源を有用な液体燃料に容易に変えることができ、これまでに困難であった様々な酸化反応開発の課題解決に向けて重要なステップとなることが期待されます。


■今回の協定で行う研究内容

大阪大学にて事業化のために必要な量産化や反応条件の最適化などの検討を行います。興部町のガス検査で得られたガス成分比を元に作成した合成ガスを用いて、量産が可能となる反応装置の開発などを行います。その後、完成した装置を興部町へ設置して、家畜ふん尿より得られたバイオガスを実際に用いて大阪大学・興部町の両者で実証研究を推進します。興部町では家畜560頭から年間54万立米のバイオガスが得られるが、本研究開発によって、82トンのメタノール、410トンのギ酸の製造が可能になると見積もっており、5年後の事業化を目指します。